【皮膚科専門医が解説】
つらいアトピー性皮膚炎のかゆみ、治らないと諦めないで!原因と最新治療、正しいスキンケアの全て
アトピー性皮膚炎について、このようなお悩みはありませんか?
- 「処方されたステロイドを使い続けても大丈夫?副作用が怖い…」
- 「大人になってから発症したけど、この症状と一生付き合っていくしかないの?」
- 「夜になるとかゆみがひどくて眠れず、仕事や勉強に集中できない…」
長引くかゆみや赤み、湿疹といった皮膚症状は、見た目の問題だけでなく、睡眠の質の低下や集中力の散漫など、日々の生活の質(QOL)を大きく損なう、非常につらいものです。先の見えない不安を感じている方も少なくないと思います。
ご安心ください。この記事では、皮膚科専門医である私が、アトピー性皮膚炎の正しい知識から、皮膚科で行われる標準的な治療、近年目覚ましく進歩している最新の治療法、そしてご自身で実践できる日々のケアまで、網羅的に、そして分かりやすく丁寧にご説明します。
読み終える頃には、ご自身の症状への理解が深まり、皮膚科医と共に治療を進めていくための「次の一歩」が明確になっているはずです。
アトピー性皮膚炎とは? – まずは正しく知りましょう
アトピー性皮膚炎とは、一言でいえば「生まれ持った皮膚のバリア機能の弱さに、アレルギーを起こしやすい体質(アトピー素因)が加わり、様々な刺激によって、かゆみを伴う湿疹が良くなったり悪くなったりを慢性的に繰り返す病気」です。
多くの方が「アトピー=子どもの病気」というイメージをお持ちかもしれませんが、乳幼児期に発症し学童期までに軽快する方が多い一方、一度良くなった方が思春期や成人期に再発する、あるいは大人になってから初めて発症するケースも全く珍しくありません。
ここで大切なのは、アトピー性皮膚炎は「ただの乾燥肌」や「弱い肌質」といった体質の問題だけで片付けられるものではなく、明確な診断基準と治療法が存在する「皮膚の病気」であるということです。「不潔だからなる」「人にうつる」といった誤解も根強くありますが、これらは医学的に完全に否定されています。正しい知識を持つことが、治療への第一歩となるのです。
なぜ起こるの?考えられる原因
アトピー性皮膚炎の原因は一つではなく、複数の要因がまるでパズルのピースのように複雑に絡み合って発症します。大きく「内的要因」と「外的要因」に分けて考えてみましょう。
- 内的要因(ご自身の体質など、コントロールが難しいもの)
- アトピー素因: ご自身やご家族に、アトピー性皮膚炎、気管支ぜんそく、アレルギー性鼻炎・結膜炎などがあるという、遺伝的な背景です。アレルギー反応に関わる「IgE抗体」という物質を作りやすい体質とも言えます。
- 皮膚のバリア機能異常: これがアトピー性皮膚炎の根幹とも言える要因です。私たちの皮膚は、本来、角層がレンガのように積み重なり、その隙間を「角層細胞間脂質(セラミドなど)」がセメントのように埋めることで、外部からの刺激(アレルゲン、細菌など)の侵入を防ぎ、内部からの水分蒸発を防いでいます。アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚では、このバリア機能に重要な役割を果たす「フィラグリン」というタンパク質を作る遺伝子の異常などにより、セラミドが少なく、角層がスカスカの状態になっています。その結果、わずかな刺激でも炎症が起きやすくなってしまうのです。
- 外的要因(環境や生活習慣など、工夫できるもの)
- アレルゲン: ダニ、ハウスダスト、花粉、カビ、ペットのフケなどが代表的です。これらがバリア機能の低下した皮膚から侵入することで、アレルギー反応を引き起こします。食物アレルギーが直接的な原因となることは乳幼児期に多く、成人では少ないとされていますが、特定の食品で症状が悪化する場合は医師への相談が必要です。
- 非特異的刺激:
- 汗や皮脂: 汗に含まれる塩分やアンモニア、皮脂が酸化した物質が刺激となります。
- 乾燥: 空気の乾燥は皮膚の水分を奪い、バリア機能をさらに低下させます。
- 物理的刺激: 衣類の摩擦、掻きむしる行為そのもの、きつい下着の締め付けなど。
- 化学的刺激: 不適切なスキンケア製品、洗浄力の強すぎる石鹸やシャンプー、残留した洗剤など。
- その他の増悪因子: 睡眠不足、過労、精神的ストレスは、自律神経や免疫系のバランスを乱し、かゆみを感じやすくさせたり、炎症を悪化させたりします。
臨床現場でよく見かける意外な原因として、「健康志向のオイル(例:ココナッツオイルなど)や自然派コスメが肌に合わず悪化するケース」があります。天然由来成分が必ずしも全ての人に安全とは限らず、アレルギー反応の原因となることもありますので注意が必要です。
こんな症状はありませんか?セルフチェックリスト
ご自身の症状を客観的に見つめ直してみましょう。アトピー性皮膚炎の診断は専門医が行いますが、以下の項目は受診の際の目安になります。
- 見た目の変化
- □ 皮膚が赤くなっている(紅斑)
- □ 湿ってじゅくじゅくしている、あるいはカサカサして細かい皮がむける
- □ 小さなブツブツ(丘疹)や、中に液体が溜まった水疱がある
- □ 長引く炎症で、皮膚がゴワゴワと象の皮膚のように厚く硬くなっている(苔癬化:たいせんか)
- □ 掻き壊した傷や、かさぶたがある
- 感じ方の変化
- □ 我慢できないほどの強いかゆみがある
- □ 特に夜間、就寝時や体が温まった時にかゆみが強くなる
- □ 炎症部分がヒリヒリしたり、熱っぽく感じたりする
- 症状が出やすい場所
- □ 左右対称に出やすい
- □ 額、目のまわり、口のまわり、耳の周り(特に耳切れ)
- □ 首、わきの下、ひじや膝の裏側のくぼんだ部分
- □ 手首、足首
- 悪化するタイミング
- □ 汗をかいた後
- □ 冬など空気が乾燥する季節
- □ 疲労やストレスが溜まった時
- □ 風邪をひいた後など体調を崩した時
これらの症状に複数当てはまる場合や、急激に症状が広がったり悪化したりした場合は、自己判断せず、速やかに皮膚科専門医にご相談ください。
皮膚科で行う主な治療法
アトピー性皮膚炎の治療は、保険診療が基本です。治療の目標は、症状をコントロールし、健やかな日常生活を送れる状態(寛解)を目指し、それを維持することです。治療の3本柱は「①薬物療法」「②スキンケア」「③悪化要因の対策」です。ここでは①薬物療法について詳しく解説します。
- 外用薬(塗り薬): 炎症を抑えるための治療の根幹です。
- ステロイド外用薬: 炎症を抑える作用が非常に強力で、最も基本となる薬です。強さに応じて5段階(最も強い、とても強い、強い、普通、弱い)にランク分けされており、専門医が症状の重症度、部位(皮膚の厚さ)、年齢などを考慮して適切なランクの薬を選択します。
- 免疫抑制外用薬: タクロリムス軟膏(プロトピック®)やデルゴシチニブ軟膏(コレクチム®)などがあります。ステロイドとは異なる仕組みで炎症を抑えるため、顔や首など皮膚の薄い部位や、ステロイドの長期使用で副作用が懸念される部位にも使いやすいのが特徴です。特に、症状が改善した後に「プロアクティブ療法(後述)」として用いることで、再燃を防ぐ効果が期待できます。
- 非ステロイド性抗炎症薬: ごく軽い湿疹に用いられることがありますが、効果はマイルドです。
- PDE4阻害薬:ジファミラスト軟膏(モイゼルト®)も比較的新しい非ステロイド性の選択肢です。
- 内服薬(飲み薬)
- 抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬: つらいかゆみを和らげる目的で補助的に用います。眠気の少ないタイプも多く出ています。
- 免疫抑制剤: 全身の炎症が非常に強く、外用薬だけではコントロールできない最重症の場合に、シクロスポリン(ネオーラル®)などの内服薬が選択されることがあります。
- JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬: 近年登場した新しいタイプの飲み薬です(アブロシチニブ、ウパダシチニブなど)。炎症やかゆみを引き起こす信号を細胞の中からブロックする画期的な薬で、中等症から重症の患者さんにとって大きな希望となっています。
- 注射薬(生物学的製剤)
- デュピルマブ(デュピクセント®)などが代表的です。アトピー性皮膚炎の炎症の”親玉”ともいえる「IL-4」「IL-13」という物質の働きをピンポイントで抑える注射薬です。これまでの治療で十分な効果が得られなかった中等症以上の患者さんに対して、非常に高い改善効果とQOL向上をもたらします。
- その他の治療法
- 光線療法(紫外線療法): 特定の波長の紫外線を照射することで、皮膚の過剰な免疫反応を抑制する治療法です。薬だけではコントロールが難しい場合や、全身に症状が広がっている場合に有効です。
明日からできるセルフケアと予防策
薬物療法で炎症という「火事」を消しつつ、セルフケアで「火種」を減らし「燃え広がりにくい環境」を整えることが、寛解維持の鍵となります。
- 症状を悪化させない守りのケア(スキンケアの徹底)
- 洗浄: 石鹸やボディソープは、よく泡立ててから、泡で皮膚をなでるように優しく洗いましょう。ナイロンタオルでのゴシゴシ洗いは、皮膚のバリアを破壊する行為なので絶対にやめてください。洗浄成分が残らないよう、ぬるま湯で十分にすすぎます。
- 保湿: これが最も重要です。入浴やシャワーの後は、皮膚が潤っている5分以内に、処方された保湿剤を全身にたっぷりと塗布します。目安は「ティッシュが貼りつくくらい」しっとりさせること。ヘパリン類似物質、尿素、ワセリンなど様々な種類の保湿剤があるので、医師と相談しながら自分の肌に合うものを見つけましょう。症状がない部位にも塗ることで、新たな湿疹の予防につながります。
- 衣類・環境: 肌着は吸湿性が良く、刺激の少ない綿素材を選びましょう。タグや縫い目が刺激になることもあるので注意が必要です。室内はこまめに掃除してアレルゲンを減らし、加湿器などで適切な湿度(50%前後)を保つことも大切です。
- 良い状態を保つための攻めのケア(生活習慣の見直し)
- 食事: 基本は、様々な食品をバランス良く摂ることです。自己判断で特定の食品を極端に制限することは、栄養の偏りを招き、かえって体調を崩す原因にもなりかねません。食物アレルギーが疑われる場合は、必ずアレルギー検査などを行い、医師の診断に基づいて対応しましょう。
- 睡眠: 睡眠不足はかゆみを増強させます。毎日決まった時間に就寝・起床し、生活リズムを整えることが、免疫の安定につながります。
- ストレス管理: ストレスはアトピー性皮膚炎の明確な悪化因子です。スポーツや趣味、瞑想など、自分に合った方法で上手にストレスを発散させる時間を作りましょう。
よくあるご質問(Q&A)
- ステロイドの副作用が心配です。塗り続けても大丈夫ですか?
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そのご心配、皮膚科医として毎日のように伺います。結論から申し上げますと、専門医の指導のもと、症状に合った強さの薬を適切な期間・量で使用する限り、深刻な副作用の心配はほとんどありません。
副作用(皮膚が薄くなる、血管が浮き出るなど)は、不適切に非常に強いランクのものを長期間塗り続けた場合に起こりうるもので、医師は常にそのリスクを考慮して処方しています。むしろ、副作用を恐れて薬を中途半端にしか使わず、炎症(火事)をダラダラと長引かせることの方が、皮膚にダメージを与え、色素沈着やゴワゴワした皮膚(苔癬化)といった治りにくい変化を残してしまいます。
症状が良くなったからといって自己判断で急にやめると、すぐに再燃(リバウンド)してしまうことが多いです。症状が改善した後の薬の減らし方や維持療法(プロアクティブ療法)についても医師が丁寧に指導しますので、不安な点は何でもご相談ください。
- 大人になってからアトピー性皮膚炎と診断されました。一生治らないのでしょうか?
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「完治」という言葉にこだわると、気持ちが苦しくなってしまうかもしれません。アトピー性皮膚炎は、高血圧や糖尿病のように「上手に付き合っていく」という側面を持つ慢性疾患です。しかし、「一生治らない」と悲観する必要は全くありません。
近年の治療の進歩は目覚ましく、先ほどご紹介した新しい内服薬や注射薬の登場により、これまでは難治性であった重症の患者さんでも、症状がほとんどない、あるいはあってもごく軽微で日常生活に全く支障のない「寛解」という状態を目指し、それを維持することが十分に可能になりました。 治療の選択肢は確実に広がっています。諦めずに、主治医と一緒にあなたにとって最適な治療法を見つけていきましょう。
- 夜中にかゆくて目が覚めてしまいます。何か対策はありますか?
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夜間のかゆみは本当におつらいですよね。「かゆい→掻く→バリア機能が壊れてさらに炎症が悪化→もっとかゆくなる」という「かゆみと掻破(そうは)の悪循環」を断ち切ることが重要です。
まず大前提として、日中の治療で皮膚の炎症をしっかりと抑えることが最も効果的です。その上で、夜間の対策としては、①就寝前に抗ヒスタミン薬を内服する、②寝室の温度・湿度を快適に保つ(汗や乾燥を避ける)、③寝る直前に、保湿剤と処方された外用薬をもう一度丁寧に塗り直す、などが有効です。
どうしてもかゆみが我慢できない時は、掻きむしる代わりに、冷たいタオルやタオルで包んだ保冷剤で患部を優しく冷やすと、一時的にかゆみの神経が鎮まります。また、無意識に掻いてしまうのを防ぐため、爪は常に短く滑らかに切っておくことを強くお勧めします。
一人で悩まず、皮膚科医にご相談ください
- アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能の異常を主体とする、正しい治療が必要な「病気」です。
- 治療の基本は、炎症をしっかり抑える「薬物療法」と、皮膚のバリア機能を補う「スキンケア」の両輪です。
- ステロイドは怖くありません。専門医の指導のもと正しく使うことが、良い状態への一番の近道です。
- 治療法は飛躍的に進歩しています。一人で悩まず、諦めずに皮膚科専門医に相談してください。
この記事は、皮膚科医 鈴木まりこ の監修のもと作成しています。
所属:みなとみらい皮膚科クリニック
経歴:〇〇大学医学部卒業後、〇〇大学病院皮膚科での勤務を経て、〇〇年に「みなとみらい皮膚科クリニック」を開業。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。