皮膚科疾患ガイド
多汗症(手のひら・足の裏・わきの汗)
「汗っかきは体質だから仕方ない」と思われがちですが、多汗症は治療の対象になる病気です。近年は保険診療で使える治療が増えています。
監修:栗原佑一(皮膚科専門医)
作成日:2026年06月11日
最終更新日:2026年07月27日
―― 要点 ――
多汗症は、体温調節に必要な量を超えて汗が出る状態です。手のひら(掌蹠多汗症)、わき(腋窩多汗症)、足の裏、頭部・顔面など、限られた部位に汗が多い場合は、原発性局所多汗症の可能性があります。
紙やスマートフォンが濡れる、握手をためらう、衣類の汗じみが気になるなど、生活への影響が大きい場合は治療を考えてよい状態です。外用薬(塗り薬・ワイプ)、イオントフォレーシス、重度のわき汗に対するボツリヌス毒素注射など、保険診療で受けられる治療があります。
一方で、急に汗が増えた、寝ている間も多い、全身に多い場合は、甲状腺の病気や薬剤など別の原因を確認する必要があります。
このページの目次
多汗症とは?
汗は体温調節に必要ですが、多汗症ではその必要量を超えて汗が出ます。原因となる病気がなく、手のひら、足の裏、わき、頭部・顔面など特定の部位に対称性に汗が多いものを、原発性局所多汗症と呼びます。
多くは若いうちに始まり、緊張やストレスで悪化しますが、「気持ちの問題」ではなく、汗の出る仕組みが過敏になっている状態です。
よくある症状
手のひら(掌蹠多汗症)
紙が濡れる、スマートフォンやペンが滑る、握手や手をつなぐことをためらう、テスト用紙が破れるなどの困りごとが起こります。足の裏にも同時に汗が多いことがよくあります。
わき(腋窩多汗症)
衣類の汗じみ、服の色を選べない、においへの不安などが起こります。
頭部・顔面
人前で顔や頭から汗が流れ、仕事や接客に影響することがあります。
悪化しやすいタイミング
緊張、暑さ、辛い食べ物などで悪化することがあります。睡眠中は汗が止まっていることが、原発性多汗症の特徴の一つです。
このような症状は皮膚科にご相談ください
- 6か月以上、特定の部位の汗に困っている
- 左右両方にほぼ同じように汗が出る
- 週1回以上、汗で困る場面がある
- 25歳以下で汗の悩みが始まった
- 家族にも同じような汗の悩みをもつ人がいる
- 寝ている間は汗が気にならない
- 仕事、学業、対人関係に影響している
複数あてはまる場合は、原発性局所多汗症の可能性があります。皮膚科でご相談ください。
早めの受診をおすすめする症状(別の病気が疑われる場合)
- 急に全身の汗が増えた
- 寝ている間の汗(寝汗)が目立つ
- 体重減少、動悸、手のふるえ、発熱を伴う
- 左右どちらか片側だけ汗が多い
- 新しい薬を始めてから汗が増えた
これらは続発性多汗症といって、甲状腺機能亢進症、感染症、神経の病気、薬剤などが隠れていることがあります。
似ている状態・見分けるポイント
原発性局所多汗症
似ている点:手・足・わきなどの限られた部位の汗
見分けるポイント:発症年齢、左右対称性、睡眠中の汗、家族歴がポイントです
受診の目安:生活に影響している場合
甲状腺の病気など全身の病気
似ている点:汗が多い点が似ます
見分けるポイント:全身性かどうか、体重減少や動悸の有無、血液検査で調べます
受診の目安:急な変化や全身症状がある場合
薬剤による多汗
似ている点:汗が増える点が似ます
見分けるポイント:服薬を始めた時期との前後関係が手がかりです
受診の目安:薬の変更後に汗が増えた場合
更年期に伴うほてり・発汗
似ている点:顔や上半身の汗が似ます
見分けるポイント:年齢、ほてりの出方、月経の状況から判断します
受診の目安:困りごとが続く場合
腋臭症(わきが)
似ている点:わきの悩みという点が似ます
見分けるポイント:汗の量とにおいのどちらが悩みの中心かで分けて考えます
受診の目安:判断に迷う場合
原因と悪化要因
体質・神経の働き
原発性多汗症では、汗を出す神経の働きが過敏になっていると考えられています。家族内に同じ悩みをもつ方がいることも少なくありません。
生活・環境
緊張する場面、暑さ、衣類などで悪化することがあります。ただし「緊張しなければ治る」というものではなく、治療で汗の量自体を減らすことができます。
診断で大切なポイント
どの部位に、いつから、どのくらいの頻度で汗が出るか、生活にどう影響しているかを確認します。続発性多汗症が疑われる場合は、血液検査などで原因を調べます。
皮膚科で行う検査・診断
多くは問診と診察で診断します。発症年齢、部位、左右対称性、睡眠中の汗、家族歴、生活への影響を確認します。続発性多汗症が疑われる場合は、甲状腺機能などの血液検査を検討します。
皮膚科で行う主な治療
多汗症の治療は、汗を完全になくすことではなく、手、足、わきなど困っている部位の発汗を減らし、学校・仕事・対人場面での支障を軽くすることが目標です。部位、重症度、年齢、続けやすさに合わせて、外用薬、機器治療、注射、内服薬などを選んでいきます。
外用薬(塗り薬・ワイプ)
汗の出口や神経の働きに作用する外用薬を使います。わきには抗コリン作用のある塗り薬やふき取りタイプの薬、手のひらには手掌多汗症用の外用薬が保険診療で使えるようになっています。塩化アルミニウム外用が用いられることもあります(保険適用外の場合があります)。
かぶれ、乾燥、目や口に触れた場合の影響など、薬ごとの注意点があります。年齢によって使える薬が異なるため、診察時に確認します。
イオントフォレーシス
手のひらや足の裏を水道水に浸し、弱い電流を流す治療です。手のひら・足の裏の多汗症に保険適用があります。週1回程度から繰り返し行い、効果の維持には継続が必要です。痛みやピリピリ感が出ることがあります。ペースメーカーを使用中の方や妊娠中の方は行えないことがあります。
ボツリヌス毒素注射
重度の原発性腋窩多汗症(わきの多汗症)には、A型ボツリヌス毒素の注射が保険適用となっています。汗を出す神経の働きを一時的に抑える治療で、効果は数か月程度持続し、繰り返しの治療が必要です。注射部位の痛み、内出血、一時的な筋力低下などが起こることがあります。
内服薬・その他
抗コリン作用のある内服薬が使われることがあります。口の渇き、便秘、眠気などの副作用や、使えない病気(緑内障など)があるため、確認のうえで処方します。これらの治療で十分な効果がない場合の手術(交感神経遮断術)は、代償性発汗という副作用を含めて慎重な判断が必要で、専門医療機関への紹介を検討します。
自宅でできるセルフケア
セルフケアは、蒸れや皮膚炎を防ぎ、汗で困る場面を把握して治療効果を評価しやすくすることが目的です。急に始まった全身の汗や夜間の発汗は、生活上の工夫だけで済ませず原因を確認します。
- 通気性のよい衣類や靴を選ぶ
- 汗をかいた後は皮膚を清潔に保ち、かぶれを防ぐ
- 手汗・足汗では、あせもや水虫などの合併に注意する
- 汗で困った場面をメモしておくと、診察時の参考になります
やってはいけないこと・注意点
- 「体質だから」とあきらめて我慢し続ける
- 市販の制汗剤でかぶれているのに使い続ける
- 急な全身の汗の増加を放置する
よくある質問
Q1. 多汗症は保険診療で治療できますか?
はい。原発性多汗症に対する外用薬、手のひら・足の裏のイオントフォレーシス、重度のわき多汗症へのボツリヌス毒素注射など、保険診療で受けられる治療があります。
Q2. 子どもの手汗も治療できますか?
相談できます。学校生活で困っている場合は治療を検討する価値があります。年齢によって使える薬や治療が異なるため、診察時に確認します。
Q3. ボツリヌス毒素注射はどのくらい効きますか?
効果の持続は数か月程度とされ、繰り返しの治療が必要です。効果や持続期間には個人差があります。
Q4. 制汗剤と治療は何が違いますか?
市販の制汗剤で十分な方もいますが、効果が足りない、かぶれる、生活への影響が大きい場合は、医療機関での治療を検討してください。
Q5. 手術はできますか?
交感神経遮断術という手術がありますが、別の部位の汗が増える代償性発汗が起こることがあり、慎重な判断が必要です。希望される場合は専門医療機関へ紹介します。
皮膚科受診を考えている方へ
汗の量は本人にしか分かりにくく、周囲から「気にしすぎ」と受け取られることもあります。診察では、原発性の多汗症か、薬や全身の病気による発汗かを確認し、困っている部位と生活への影響に合う治療をご提案します。
手汗、足汗、わき汗で学校や仕事に支障がある場合や、急に全身の汗が増えた場合はご相談ください。
当院での診療について
湘南皮膚科では、汗の部位、頻度、生活への影響をうかがい、原発性多汗症か別の原因がないかを評価したうえで治療を提案します。
外用薬に加え、イオントフォレーシス、重度の原発性腋窩多汗症に対するボツリヌス毒素注射も、対象年齢や保険適用を確認しながら検討していきます。手術が必要な場合や続発性多汗症の精査が必要な場合は、連携医療機関へ紹介いたします。
手汗で紙がぬれる、足の汗で皮膚トラブルを繰り返す、わき汗が生活の負担になるなど、具体的に困っている場面を診察でお聞かせください。
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まとめ
- 多汗症は治療できる病気です
- 手・足・わきの限られた部位の汗は原発性局所多汗症の可能性があります
- 外用薬、イオントフォレーシス、ボツリヌス毒素注射など保険診療の選択肢があります
- 急な全身の汗は別の病気の確認が必要です
- 生活への影響が大きい場合は受診を検討してください
※この記事は一般的な医療情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療の代わりになるものではありません。
監修者情報
監修:栗原佑一
所属:湘南皮膚科
資格:日本専門医機構認定 皮膚科専門医
作成日:2026年06月11日 最終更新日:2026年07月27日
参考文献・情報源
参照日:2026年7月11日
